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波夏が軽い自己紹介を会長に終えれば、どこかやつれた…いや、明らかにやつれた様子の会長。
腐女子、恐るべし。
「堺くんも可愛い顔してたけど、いやぁ…生徒会長万歳…!GJ!
…颯人も元気そうだし、良かった」
安心したように微笑んだ波夏に思わず、へ?と間抜けな声を出してしまう。
良かったと言うその声が予想外に温かくて。
何かが、引っ掛かる。
けれど考えるのも面倒だから、俺はただ「ああ」とだけ答えた。
「じゃあ颯人の生存確認も出来たし、帰ろうかしらー」
「人を死にかけだったみたいに言うな
というか帰るのか」
意外とあっさり帰るんだな、と思いながらそう問いかける。
すると波夏は、幸せそうに頬を緩ませた。
「待たせてる人、いるから」
「…っ」
そんな波夏にすぐに言葉を返すことが出来ない自分に、何をやっているんだと嫌気がさした。
じゃあ、と言う波夏を俺は会長と一緒に見送る。
またな、なんて返したが、よく分からない感情が俺の中でぐるぐると渦巻いていた。
「待たせてる人って、誰だよ…」
小走りで去っていく背中に、零れた呟きが波夏に届くことは勿論なく、その小さい背中はやがて長い一本道の向こうへと消えた。
諦めたはず、だろ。
自分が酷く情けなくて、限界まで膨らんだ風船のような心は俺に周りを見る余裕をくれなかった。
「…好きなのか、あの女のこと」
そう声をかけられてやっと会長がいることを思い出す。
いつもと同じ、無感情で空気に溶けるような低音。
小さく息を吐き、俺はその場にしゃがみ込んだ。
「…好きじゃない」
「なんで嘘をつく」
「本当に好きじゃない………好きだった」
しばらくの沈黙が俺達を包んだ。
返答に困っているのだろうかと思ったが、不思議とそんな感じはしなかった。
普段通りに堂々たる独特の雰囲気を醸し出す会長。
それは何故か、俺の心をほぐすのに十分だった。
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