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「…っ、」
頬に伝った生暖かい液体。
それが何か分からないほど、俺だって阿呆じゃない。
「…っ、ぅ……、くそ…っ」
会長は相変わらず何も言わずに俺の隣に立っていた。
いっそのこと、俺のことなんてもう放って帰ってくれればいいのに。
そう言いたいのに、開いた口は鳴咽しか漏らさない。
ただ次から次へと、涙が流れてくるだけだった。
「泣きたい時は泣けばいい」
「!」
不意に耳元で囁かれた声に思わず顔を上げれば、すぐ前には整った顔があった。
ばっちり衝突した会長の眼は、真剣味を帯びていて。
なんでこの人は、そんな眼をしてくれるんだろう。
訳が分からなくて、涙で少し霞んで視界いっぱいに会長を入れると、目の前の顔が、優しく微笑んだ。
「今なら俺様しか見てないしな」
「…っ、お前に、見られるのが1番…っ」
なんだこれ。…なんだこれ!
相変わらずの俺様ぶりに腹立つような、恥ずかしいような、でも嬉しいような。
もう本当に、訳が分からない。
混乱しているのを悟られないようにと、膝に顔を埋める。
と同時に、頭に感じた温もり。
ぽんぽんという衝撃で、ああ撫でられているんだと理解した。
その行為は、あまりにも優しすぎて。
いいから泣け。
そう言われているようで、涙が止まらなくなった。
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