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「元気でな」
子供達の中でも、ひときわ大きい体つきをした彼がそう言った。
「うん、ありがとう」
「その性格の強さで、またここに戻ってくるなよ」
こどもながらに、整った顔立ちの彼はそう言って少し不機嫌な顔をした。
「あんたこそ、そのひねくれた性格直しなさいよね」
私は彼に舌を出した。
彼は、うるせーと言いながら、手をひらひらとさせていた。
「イリア、そろそろ行こうか」
少し恰幅のいい男性はそう言って、私の手を握った。
私は少し淋しい気持ちを押し殺して、笑顔で手を握り返した。
見たこともない様な大きな車に乗せられて、私は彼らの元から巣立っていった。
まだ、大人の事情なんてわからない小さな頃だった。
車の窓から覗きこむと、少し淋しそうな表情をして私を見つめる、シルクハットを被ったあのひとと目が合った。
すぐに彼はにっこりと笑ってくれた。
この笑顔にはもう二度と会えないだろうなと、わかっていた。
・・・少し、胸が苦しかった。
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