雨の香り

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一年生の頃から屋上の一角が秦のお気に入りの場所だ。 風の音に雑踏から聞こえる雑音はかき消され、上を向けば青空が広がっている。 都会とは思えない程の青空。 そんな青空を誰かが塞いだ。 「やあ、美奈希さん」 「ご飯一緒に食べて良い?」 「ああ、うん良いよ」 結が秦の隣に腰を下ろし、持ってきた弁当の包みを開ける。 ちんまりとした小さな二段重ねの弁当箱だ。 「そんなんで足りるの?」 「うん、足りるよぉ」 サンドイッチ1つしか食べていない秦が言うのもどうかと思うが、他愛ない会話を挟みながら食事は進んでいった。 結が秦と食事を採るようになったのは進級早々からだ。 秦も雨の日は流石に教室で昼食を採る。 しかしそんな日、つまり教室に居ても結は秦の所までわざわざやってきては昼食を共にするのだ。 「美奈希さん」 「なに?」 そして今日に限って何を思ったか、秦はいつも疑問に思っていた事を口にする事にしたようだ。 「いつも僕の所に来るけど、そのさ、友達とかとご飯食べたりはしないの?」 「もしかして、迷惑だったかな」 「いや、迷惑じゃないよ、邪魔されてるわけじゃないし」 秦の疑問に結の表情が暗くなった、それを見て秦は苦笑いを浮かべて言葉を返した訳だが。 「よかったぁ」 と、結が秦の疑問に答える事は無かった。 上手く、はぐらかされた気がせんでもない秦だったが、追究するべきでも無いか、と、この話題もそこそこに、結と放課後の予定を話し合うことにした。
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