13人が本棚に入れています
本棚に追加
しばらく2人は街を回った。
服を見たり、アクセサリーを見たり、ファーストフードの店で一服したり。
端から見れば恋人同士に見えるかも知れないが、2人が付き合っているという事実はない。
「なんで僕にかまうの?」
だからかも知れない、秦の口がそんな事を呟いたのは。
日の落ちた街。
前を歩いていた結を秦のその言葉が呼び止めた。
結の顔に浮かぶ困惑の色。
「好きだから……緋月君の事が好きだから、じゃ、ダメなのかな……」
俯いた結が零した言の葉は次に秦を困らせた。
「なんで僕を好きになれるの? 美奈希さんに特別優しく接してたわけじゃないし、ルックスが良いってわけでもない。皆を惹き付けられるようなフレンドリーさもないのに」
秦から出た言葉は秦が疑問に思った事そのままだ。
頭の中で考えた事がそのまま口から出たと考えて良い。
なんの気遣いもなく。
ただ気になったのだ、進級当初からずっと秦が気になっていた事でもあった。
「最初はね……最初は私、緋月君の事が単に気になっただけだったの。この人なんでいつも無表情なんだろう、この人なんでいつも外見てるんだろう、この人なんでいつも……悲しそうなんだろうって」
秦は黙って耳を傾けていた。
疑問が一つ無くなると考えていたのもあったが、少し驚いていたのだ。
自分を見ていた人間がいたということに。
「緋月君の事考えてる内にね、もっと緋月君の事知りたくなって、その日のウチに声を掛けたの、そしたら緋月君が想像してたよりも良い人で……でもやっぱり悲しそうで……緋月君の笑顔が見たくなって……ごめんね、何言ってるんだろうね私」
結が秦に向けた笑顔。
しかしその瞳には涙が浮かんでいた。
最初のコメントを投稿しよう!