雨の香り

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しばらく2人は街を回った。 服を見たり、アクセサリーを見たり、ファーストフードの店で一服したり。 端から見れば恋人同士に見えるかも知れないが、2人が付き合っているという事実はない。 「なんで僕にかまうの?」 だからかも知れない、秦の口がそんな事を呟いたのは。 日の落ちた街。 前を歩いていた結を秦のその言葉が呼び止めた。 結の顔に浮かぶ困惑の色。 「好きだから……緋月君の事が好きだから、じゃ、ダメなのかな……」 俯いた結が零した言の葉は次に秦を困らせた。 「なんで僕を好きになれるの? 美奈希さんに特別優しく接してたわけじゃないし、ルックスが良いってわけでもない。皆を惹き付けられるようなフレンドリーさもないのに」 秦から出た言葉は秦が疑問に思った事そのままだ。 頭の中で考えた事がそのまま口から出たと考えて良い。 なんの気遣いもなく。 ただ気になったのだ、進級当初からずっと秦が気になっていた事でもあった。 「最初はね……最初は私、緋月君の事が単に気になっただけだったの。この人なんでいつも無表情なんだろう、この人なんでいつも外見てるんだろう、この人なんでいつも……悲しそうなんだろうって」 秦は黙って耳を傾けていた。 疑問が一つ無くなると考えていたのもあったが、少し驚いていたのだ。 自分を見ていた人間がいたということに。 「緋月君の事考えてる内にね、もっと緋月君の事知りたくなって、その日のウチに声を掛けたの、そしたら緋月君が想像してたよりも良い人で……でもやっぱり悲しそうで……緋月君の笑顔が見たくなって……ごめんね、何言ってるんだろうね私」 結が秦に向けた笑顔。 しかしその瞳には涙が浮かんでいた。
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