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会話がまた途切れた頃。
秦は窓の外に見慣れた車を見つけた。
「全く、電話してきてくれれば良いのに」
結に迎えが来たことを知らせ、店を出る2人。
外には傘を持った凛堂が佇んでいた。
「ごめんね凛堂さん、世話掛けちゃって」
「それが私の仕事ですので」
いつもと変わらない凛堂の態度に、やれやれといった風に苦笑する秦。
結はというと、凛堂の佇まいと後ろに控える黒塗りの車に戸惑っていた。
「あ、あのご迷惑をお掛けします、えっと、私緋月君の友達の美奈希結です、えと――」
「ご丁寧にどうも、凛堂と申します。若から話は聞いております。どうぞこちらに」
そう言って傘を差し出すと、凛堂は車へ向かってドアに手を掛けるとそれを開いた。
秦は結と傘を差し、共に車まで歩く。
結を先に車に乗せ、秦は鞄を凛堂に渡す。
そしていざ自分も車に乗り込もうとしたそんな時。
秦の視界にあるモノが映った。
顔を上げ、それを確認する秦。
「凛堂さん、美奈希さんを送ってあげて」
「どうしました、若」
「仕事ができた」
それだけ言うと秦はおもむろに眼鏡を外し、それをブレザーの内ポケットにしまった。
「お気をつけて」
「うん」
車のドアを締め、秦は走りだした、反対車線側の歩道に向かったのだ。
「緋月君!?」
車の中で結が声を上げた。
幸い車は来なかったが、雨の中、傘も差さずに走り出した秦の行方を結は視線で追った。
そして秦は反対車線側の歩道から更にビルとビルの間の路地裏に消えて行くのだった。
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