動き出す歯車

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後退りする流が再び手をかざした。 先刻の水の杭が再び姿を表すが、今度は数が多い。 そしてその杭は秦の前だけでなく、後ろにも姿を表す。 それを肩越しに一瞥すると、秦はニヤリと笑って流を見た。 「――っち」 流に刻まれた紋様が光を増す。 水の杭が秦に迫る。 そして秦は走り出した。 流に向かって一直線にだ。 (僕に向かって来る水だけを――) 秦の目に映る灰色の世界。 水の軌跡は秦には止まって見えるのだ。 灰色に染まる杭の軌跡を現実に迫る水の杭がなぞっていく。 後はタイミングだ。 ナイフを正面から突き立てるのは、いくらなんでも得策ではない。 腐っても魔術だ。 杭の威力にナイフが弾かれない保証はない。 迫る杭を逆手に構えるナイフで切って捌く。 コレが一番確実な回避方法だ。 後ろから迫る杭は軌跡がまず体を貫く。 ならば、そこから少し体をズラせば回避は容易になる。 掠りこそすれ、致命傷にはならない。 「テメェはなんだ! なんなんだよ!」 「僕ですか?」 一瞬秦を見失う流、ソレもそうだ、秦は流の懐に潜り込んだのだ。 「僕は言うなれば、殺人鬼といったところでしょうか」 秦がナイフを流の胸に突き立てる。 そして"解体"は始まった。
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