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一瞬、男が消えた。
そして、秦の着る制服の左腕の袖が裂ける。
皮膚にも何か掠めたか、血が滲んだ。
「おかしいなぁ、胸狙った筈だけどなぁ」
有坂は秦の後ろ、ビルの壁際に立つフェンスの上に立っていた。
姿形が変わっている訳ではなかった。
しかし、手は肥大し爪が伸び、まるで獣のように変化しているのが見受けられた。
中指の爪に血が滴っている、秦の腕を掠めたのはアレだ。
「なるほど、‘モンスター’ね、君はソレを使って遊んでた訳だ」
「そうさ、楽しいんだぜぇ? どこから来るかも分からない痛みに怯える人間の顔見るのってさぁ」
そう言って有坂は笑うと再び姿を消した。
路地裏の闇の中、有坂の笑い声だけが秦の周りを回っていた。
「怖いだろ? えぇ、怖いだろ? これからお前は殺されるんだぜ? ヒヒヒヒヒ」
「それは……無いよ」
秦がブレザーの内ポケットに手を伸ばし、そして目を閉じた。
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