緋色の月

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路地裏に光が差した。 月だ。 秦の後ろから伸びる月の光が暗い路地裏をうっすらと照らし出していた。 ブレザーから手を抜く秦、握られていたのは刃渡り約30㎝程のナイフ。 「そんな物位で、今の俺に勝てるか……よ!」 有坂が三度姿を消す。 鋭利な爪が狙うのは、秦の心臓。 無造作にナイフを構える秦が少しずつ閉じていた目を開く。 その目に有坂は疑問を覚えた。 先程まで黒かった筈の瞳、しかし今目の前に佇むナイフを構えた少年の目は瞳孔は黒いまま、虹彩は紅く染まり、瞳自体は金色に輝いていた。 だが、既に有坂の射程圏内。 手を伸ばせば胸に爪が、手が食い込む。 そして鮮血が宙を舞った。 しかし、悲鳴をげたのは有坂の方だった。 「ぎゃああ!! 腕がぁ、俺の腕がぁ」 有坂の突き出した腕は秦を捕らえはしなかった、手首から先を切り落とされたのだ。 膝をコンクリートの地面に着き、痛みに悶絶する有坂。 その膝をつく有坂の足首に秦は自らの踵を叩き付けた。 グシャリと嫌な音をたて有坂の左足があらぬ方向を向く。 再び有坂の悲鳴が暗い路地裏に響いた。 「痛いですか? 痛いでしょうね、痛くしましたから」 そう言って秦は有坂の喉元にナイフの刃を当てる。 有坂は痛みと恐怖から顔を歪め泣きじゃくっていた。 「モンスターの元締めは誰です?」 震える有坂がやっと絞り出した答え、それは弱々しく「知らない」と、いった常套句だった。 しかし、手首を切断され足首を折られ、ナイフを喉元に突きつけられてのこの答えは本当の意味での‘知らない’というところに重きを持つ。 残念といったように肩を落とす秦。 「助けてくれぇ、頼む、この通りだ……頼む」 次第に掠れていく有坂の声、大量の出血と恐怖で有坂の体力は限界に近づいていたのだ。 秦は有坂の言葉にナイフを引いた。 「あ、ありがてぇ」 「有坂さん、アナタは命乞いした人達を助けましたか?」 「――え」 秦がナイフを有坂の首目掛けて振り下ろした。 路地裏に舞う再びの鮮血。 有坂の首は胴体から離れて落ちた。 秦はその様子を見もしないでナイフに付いた血を拭き取ると、ブレザーの内ポケットからナイフをしまうホルスターを取り出し、ナイフを片づけると、ホルスターを腰の後ろ、学生ズボンのベルトにソレを取り付け赤く染まった満月を仰いだ。 「緋色の月……嫌いじゃないんだよね」
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