緋色の月

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路地裏から人通りの少ない裏通りを目指して歩く秦。 路地裏から秦が姿を表すと、一台の黒塗りの車が待っていた。 運転席側の扉が開き、男が1人姿を表す。 黒いスーツに夜にもかかわらずサングラスを掛けた体格の良い、いかにもといった風貌の男だ。 「……若」 秦をそう呼んだ男は秦にタオルを渡すと、車の後部座席側の扉を開いた。 「ありがとう、凛堂(りんどう)さん、いつもごめんね」 「いえ」 無表情の男、凛堂のその言葉に苦笑を浮かべ、秦は車に乗り込む。 凛堂は秦が車に乗り込むのを確認すると、運転席へと向かった。 程なくして進み出す車の中、秦は移り変わって行く街並みを眺める。 「凛堂さん、なんで兄さんにつかないの? ……僕なんかにつくより出世出来るだろうに」 「……私は、若が生まれた頃から若だけの付き人です」 「……そう」 秦はその言葉を最後に目を閉じる。 睡魔が秦を眠りの世界に誘った訳だ。
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