201人が本棚に入れています
本棚に追加
/949ページ
セピア色の心で彼らを見つめていた。無機質な原色の心。何かを感じ、反応する事も無い。
あの頃のシオはただ自分と云う存在を確かめる事で手一杯だった。知識と感覚をあてに、記憶らしい記憶を持たない自我を肉付けしていくしかない。目の前の人や現象に動かされる好奇は持ち合わせていなかった。
今覚えば、それでも自分の深奥には羨望があったかもしれない。あんな風に生きたい、あんな世界にいたい。無意識の籠の中に、暴れ狂う欲求をずっと飼い慣らしてきた。だから今、全身全霊でサンドハーストでの生活を謳歌できるんだろう。
空っぽだった魂を、出会いが、触れ合いが、繋がりが満たしてくれた。生きると云う行動に手一杯だった自分に彩り豊かな未来を見せてくれた。
しかし、楽ばかりじゃなかった。人と生きる事は時に苦難と苦悩を齎す。過去の諍い、想いの擦れ違い。
引き金が数多あれば銃口も各々異なる方を向いている。放たれた弾丸は、哀しい痛みを帯びていた。
シオ自身、直面した時の悲しさを忘れられない。酷く痛ましい。目を背けたくなる程。
だがシオは逃げなかった。阻まれても、止められても自ら手を伸ばし続けた。関わりを断ちたくなかった、繋がりを裂きたくなかった。自分に鮮やかな日常を与えくれた存在を失いたくない。シオの切実な願望はシオを走らせた。
澱みやうねりに押されながらも、今シオはありふれた日々の流れに帰り着き、進んでいる。
最初のコメントを投稿しよう!