第一章

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義勇軍宿舎――― 「今日も働きましたねー」 とく、と呼ばれる若者が、背伸びをしながら敷布に倒れ込んだ。 「平時ではなく、戦時ですからね。見廻りの任務も気が抜けませんし…」 夜天使と呼ばれる男も、とくに同調する。 義勇軍。彼らが称している名は、靖共隊。 新撰組から分離し、永倉新八らが創設した部隊と同名だが、接点はない。 靖共隊の宿舎として与えられているのは、他の部隊と相違なく、一般的な宿舎だ。現地採用の義勇軍とはいえ、実力に見合った待遇を与える…というのは、陸軍奉行並・土方歳三の考え方らしい。 「ま、いきなりヒョイと現れた義勇軍に対する処遇としてはいいかもしれないけど、宮古湾での活躍考えたらもう少し優遇して欲しいよなぁ」 直江が、少し愚痴めいたことをぼやく。 「でもそこはほら、なおえちがこれからうまくやればいいんじゃない?」 マジェンタ、と呼ばれる女性隊士がにこやかにたしなめる。 序列にうるさい時代ではあったが、こと、靖共隊においてはハッキリとした上下関係は存在しなかった。 一応全体の指揮を出すのは直江、後方支援部隊の指揮官がマジェンタ。前線突入部隊に関しては、ゼンガーという男性隊士と梨夢という女性隊士が指揮を取る。 だが、そこに序列があるわけではない。全員が仲間として、堅固な絆を築いている部隊であった。 近接戦闘における戦闘力に関して言えば、蝦夷共和国随一といっても過言ではない部隊。 新選組の生き残り部隊ともよく連携し、蝦夷地における各地の平定戦でその実力は高く評価されている。
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