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「そう言えば、おチビちゃんのあの仔ドラゴン……どういう経緯で手に入れたんだっけ?」
「旅に出て早々に、エミッタが偶然拾ったらしいが……」
「おいおい、ルース……まさかお前さん、本当に偶然だなんて思ってないよな!?」
ルースは言葉に詰まったように、口に運んでいたコップを止めた。声をひそめたリットーの言葉は、ルースの弱い所を確実に突いた様だった。
ルースも旅の最中に、考えないでも無かった事柄なのだが。よりによって、娘のエミッタの前に現れた仔ドラゴンは、やはり何かしらの前兆であるには違いなく。
それが十年前の出来事と無関係ではないと、否定出来ない自分がいるのだ。
「私は辺境と呼ばれるアザーランドなら、何があっても不思議じゃないって気もするけど……実際はどんな場所なの、ルース?」
「いや、樹海や霊峰はともかく、俺の故郷はそこまで危険な場所でもないんだが……確かに、偶然龍に出会ったり、魔獣や霊獣に出くわすような場所でも無いのは確かだな」
オルレーンに自分の出身地の説明をしながら、確かにリットーの言う通りだと認めざるを得ないルース。だが、妖精の伝言にしろ仔龍のお届けにしろ、本当にリーフの仕業と言う事が有り得るのだろうか?
十年前にこの世を去った、最愛の女性。その際に命懸けでリーフが行った、エミッタの出産。自分が生き続ける糧となった、腕の中の小さな赤ん坊……。
今のエミッタを見て、リーフは何と言うだろう。子育てに失敗したとなじるだろうか?
物思いに沈んでいたら、オルレーンが気遣わし気に肩に手を掛けて来た。リットーも、空のグラスに酒を注ぎ足して来る。あの頃もこうやって、生き延びた者達が支えてくれた。
もちろん、この二人がその中心にいたのだが。
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