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「あの子には、母親の事はある程度話したんだが……出生のいざこざも話すべきかな?」
「それは……お前さんも、ある程度あの子が成長してから話そうと思って隠してたんだろう? 確かに子供には、ショックな話だからな」
「そうねぇ……普通はコンプレックスになるわよねぇ」
デリケートな話だけに、声をひそめて言葉を選ぶ三人。その時、部屋の扉がノックされ、ディズが顔を覗かせる。魔法装置が作動しているのを目ざとく確認して、するりと部屋に滑り込む。
その動作は、訓練された者の動きだった。
「お呼びで、旦那様?」
「ああ、ディズを紹介するよ、ルース。俺が個人で雇っている、密偵と言うか情報収集員だ。最近調べ物をしてるって事だから、一応役に立てばと思ってな」
ルースが眉をひそめてリットーを見た。それからディズの腕前を確認するように、幾つか質問を飛ばす。ディズが現在の宮廷魔術師の名前をスラスラ答えると、ルースは精霊の塔までの道のりの安全性と、オルバ爺さんの居場所を知りたいと口にした。
ディズは軽く頷いて、リットーに目をやる。
「何だ、しばらく魔法の書と向きっきりだったんだろ、ルース? そっち方面の情報は必要ないのかい?」
「ああ、知識の豊かな魔術師が近くにいるのなら紹介して欲しいのは確かだが……今の宮廷の魔術師とは親しいのか、二人とも?」
「そんなの、自分で聞けばいいだろ? お前さんだって、名の知れ渡った救国の英雄なんだから。実際、城にも来て貰わないと、王様がおカンムリだぜっ!?」
オルレーンが、クスリと含み笑い。自分も色々と、国王からせっつかれているのだ。さすがに英雄がこの屋敷に滞在していると言う情報は隠し切れないようだ。
リットーも酒が入って来ると、段々と愚痴モードに移行し始める。ルースの才能に触れては、辺境に引っ込んだのは勿体無いと大げさに嘆いてみせ、城勤めの辛酸は言うに及ばず。
ディズに同席を許し、猫背の使用人に酒をすすめ始める頃には、呂律も覚束ないよう。
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