城塞都市メリビル

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 オルレーンが静かに頷いて、その意見に肯定の意を示した。ディズは情報の分析力も優れているようで、リットーの部下を見る目は確かなようだ。  ルースも十年前の、戦後の混乱を放り出して逃げた負い目がある事も確か。かと言って、自分に何が出来るかと問われても、剣の腕や腕力以外は自慢になるような特技は無い。  ましてや、一人ではアクビス国の牽制にすらならないだろう。 「俺を利用するのは構わんが、俺の知名度も隣国には通用しないだろう。内戦を終わらせたり、アクビス国の牽制になったりはしないと思うがな」 「それはそうだけど……少なくとも、自国の治安回復にはなる筈よ。情勢不安は、自国にも波及しているのは確かですもの。何しろ、一万人を超す他国民が国内に腰を据えているのよ?」 「確かに、そういう不安や不満は自国民の間に生まれて来ておりますな……城砦都市内はともかく、近辺の街との諍いも何度かあったとの報告が届いています」  ディズが冷静な口調で、そう情報を提示して来る。そう言う時には、心強い柱が必要なのだとオルレーン。皆が知る救国の英雄なら、その素質は充分にある。  何しろ、あれから十年経った今でも、国王とその危機を救った友情のサーガはとんでもなく有名なのだ。戦争の傷痕が生々しさを減じても、そういう話はむしろ生き生きと、人から人へと伝わって行くのだ。    身内びいきが過ぎると、ルースは内心恐縮気味なのだが。妖精の告げた約束の日まで、幸いまだまだ時間がある。ここに厄介になってる分は、働いて返すのも悪くは無いだろう。  その肝心のお館様は、今や完全に酔い潰れているよう。机に突っ伏して、既に皆より先に夢の中。本当ならば、この辺りの事情はリットーから為されるべきなのだとオルレーン。  ディズがそのための情報を、最後に簡単に伝えて来た。 「国王は既に、ドワーフの職人を百人単位で雇う算段をつけているようですな。そのための土地については、候補地が幾つか上がっているようですが。旦那様が雇った若い風水師が、近日城に招かれるそうです」 「それは丁度いいわね、ルースも一緒に国王に面会する事にすれば? とにかくこれ以上は、国王に言い訳は通用しそうに無いわ!」
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