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自分の身の回りの処理を優先していたら、何時の間にかにっちもさっちもいかない状況に追い込まれていたようだ。全く、父親を演じるのがやっとの自分に、国王と国の危機について話し合う機会をつくれだと?
国を救おうと理想に燃えていた、青二才の頃の自分はもういない。それは自分自身が良く分かっていた。あの頃は、得たものも多かったが、それ以上に大切なものを失う事になったのだ。
理想は、まだ確かに胸の中にある。それは静かな揺らめきとして、心の奥底に残っている。しかし、格とした信念と、それを突き動かす情熱は、あの頃に最愛の人と共に失ってしまった。
正直に胸の内を明かすと、ルースは十年経った今でも、あの時の喪失感と向き合うのが怖かったのだ。正気を失いそうな胸の痛みと、再び対面する自信などありはしない。
それでもここまで旅して来たのは、ひとえに娘のためである。
今の自分には、娘のエミッタがいる。それだけが、過去との邂逅に立ち向かえる己の唯一の武器である。そして、娘が本当の事を知る、良い機会だとも思ったのも事実だ。
娘の側には、常に自分が連れ添っていてやれば良い。少なくとも、精神的な支えが必要な事態に備えられるように。恐らく旅の終点には、少女が耳を疑うような真実が横たわっている筈だ。
自分が知る限り、それは紛れも無い現実なのだから。
――だが、その時に事の真実と母親のリーフは、一体どこに位置するのだ?
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