6つの奇跡とリンの決意

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明裕の机…。学会か何かに発表するための原稿だろうか。資料が至るところに散乱していた。元々自分の身の回りのことを放り出してまで、研究に没頭する明裕の事だから、あまり珍しいことではなかった。ただ、これだけ物が散乱している机の上に、一ヵ所だけ綺麗に整頓されている場所があった。そして、そこには数枚の手紙が置かれていた。手紙だけしか置かれてないせいか、その空間だけが、どこかに置き去りにされているような…。リンにはそんな風にさえ感じた。 「明裕さん…」 これが明裕の最期の言葉…。手紙を読んでしまえば、もう明裕の言葉を聞くこともなくなってしまう…。そう思うと、リンは手紙を読むことをためらってしまった。 「…だめ、こんなんじゃだめ。…もう絶対に下を向いたりしない!」 そう言って、リンは手紙を読み始めた。 『リンへ この手紙をリンが読んでいるとき、僕は何をしているんだろう…。まだ、リンの傍にいるのか…。それとも、もうそこに居ないのか……。正直、それは僕にも分からない。本当だったら、面と向かってリンに伝えたいけど、どうしても恥ずかしくて…。だから、手紙で伝えることにします。』 一枚目はそこまでで終わっていた。そこでリンは一息ついた。 (落ち着いて…!) 手紙の一文字一文字を追っていく度に、自分の鼓動が早くなっていくのが分かった。もう一度深呼吸して。手紙の続きを読み始めた。
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