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「ん~。…ふぅ」
リンは、ベッドから上半身を起こし、腕を上げて背伸びをすると、ベッドの横にある机の上の写真に向かって
「おはよう…明裕さん」と、小さく笑顔を見せた。写真には、リンと明裕が2人笑顔で写っていた。…そして、これが2人で写る最後の写真になってしまった…。
リンが、話すようになってから、明裕は自分の事をたくさんリンに話した。早くリンに自分という存在を理解してもらって、リンに自ら、鏡音リンとは、どういう存在なのかを話して欲しかった…リンに心を開いてもらいたかったのだ。
しかしリンは、空返事ばかりで“ココロ”を開こうとはしなかった。そして、明裕はリンに
「リンは…僕が嫌い?」と聞いた。
リンは違うと否定した。そして…
「キライ…では、ないです。ただ…」
と、そこで口を結んでしまった。
「リンを造った、誰か…その人が原因なのかな? 」
明裕は1人呟いた。当のリンは、何も言わずただうなだれていた。
「まぁ…、誰にだって言いたくないことの一つや二つ持ってるものだし、無理に聞こうとはしないよ」
そう言って、リンの頭をそっと撫でた。するとリンは泣き出した…子供のような大きな声で。明裕は何も言わずリンを抱きしめた。優しく包み込むように…。
「うわぁぁぁぁん!!…マスター…ますたあぁぁぁぁ!!」
リンが泣き止むまで、明裕はずっと抱きしめていた。
泣き止んだリンは、自分が造られた理由、そして…『マスター』との日々を明裕に話した。明裕の肩に頭を乗せるようにして…
鏡音リンは今から、幾百年前、1人の科学者によって造られた。その時の世界は、戦争や環境破壊が続き、地球上の全ての生物にとって、とても住みづらい環境にあった。人類はまだ何十億といたが、いつ絶滅するかわからない状態だった。リンを造った科学者…マスターは、この世界にある最も素晴らしいもの、歌をこの世界に残したかった。そのために鏡音リンは造られ、そして、この世界でたった一つの“鏡音リン”という存在になった。
その後リンは、研究ばかりでまともに家事すらしないマスターの世話係を自ら買って出た。そして、マスターの世話の合間に歌の練習…という日々を続けた。
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