7 天一号作戦

30/33
前へ
/83ページ
次へ
 その声は拓也達の耳にも届いた。村上一水は拓也の腕の中で気を失っている。  その声の意味を知りたくて、拓也は田丸二曹を見つめた。  田丸二曹は大きく一つ息を吐き、マッチで煙草に火を点け、そして拓也の横に座り何も言わずに拓也に煙草をすすめた。  拓也も煙草に火を点け 「二曹、総員最上甲板というのは?」  と尋ねた。 「戦闘は終わりです、班長。退艦命令ですよ。」  田丸二曹は何故か笑みを浮かべながら答えたのだった。拓也にはその笑みが安堵の表情にも、作り笑いにも受け取れた。 「きっと班長の知っている史実通りになったのでしょう。」  拓也はため息をついた。 「申し訳ない田丸二曹。史実を知っていながら俺は何も出来なかった。」  田丸二曹は首を振った。 「班長が責任を感じる必要はありませんよ。結局、大和はこういう運命だったんですよ。」  そう言うと田丸二曹は尻をパンパンとはらう様にしながら立ち上がった。 「さぁ班長、村上を連れて退艦しましょう。もう大和は時間の問題です。」  だが拓也は立ち上がろうとはしない。田丸二曹は首をかしげた。 「班長、どうしました?」  やはり拓也は動こうとはしない。 「班長?」  田丸二曹はしゃがみながら拓也の肩に手を乗せた。 「田丸二曹、村上一水を連れて二人で行ってくれ。俺はこのまま大和に残るよ。」  拓也の表情はすべてが吹っ切れた様に田丸二曹には見えた。田丸二曹には拓也の真意がわからない。その事を察したのか拓也は口を開いた。 「知っての通り、俺は妻子を失い人生に失望し自殺をし、何故かここへ来た。この時代の日本人じゃない俺が生き延びても、この先どうしていいのかわからない。もし、未来に戻れたとしても同じさ。だから、俺は大和に残るよ。」
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

235人が本棚に入れています
本棚に追加