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「この馬鹿が。」
田丸二曹は小声でそう言った。拓也はそれを聞き取れず、聞き返そうとした瞬間、拓也は田丸二曹に胸ぐらをつかまれた。
「甘ったれてんじゃねえよ!!死んでいった内田達はあんたに何て言った!!必ず未来に帰ってくれと言ってただろうが!!内田達の思いを無にするつもりか!!」
「田丸二曹…」
「俺もこの戦争で大勢の戦友や部下、そして家族も失った。だからあんたの気持ちはわからないでもない。
だがな…
少なくとも未来の日本は戦争のない平和な日本なんだろ?あんたいつか俺に言ったよな。未来の日本では自ら命を絶つ人が多いって。後世の日本人が、平和な日本で命を粗末にしてどうする?俺達はそんな未来の日本の為に、この時代で命かけてるんじゃないぞ!!」
田丸二曹は涙を流していた。拓也はその言葉と姿に、自分のしようとしている事がどれだけ愚かな事だという事を思い知らされたのだった。
田丸二曹は大きく深呼吸をした。
「俺にもどうすればあなたが未来に戻れるのかわからない。でも生きるんだ。生きるんですよ、班長。そうすればきっと道は開けます。」
拓也も涙を流しはじめた。
「亡くなった奥さんやお子さんも、きっと班長の幸せを祈ってますよ。内田達だって同じです。
未来に戻って俺たちの事、時々思い出して下さい。」
拓也は大きくうなづいた。
「さぁ村上を連れて行きましょう、班長。」
そして二人は両脇で村上一水を抱えながら立ち上がった。
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