8 死に急ぐ、君達へ

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 その声は拓也の耳には届いていない。 「今、いつですか?昭和何年ですか?」 「昭和?平成二十年ですよ。」 「昭和二十年?」 「いえ昭和ではありません。平成です、平成二十年ですよ森下さん。」  拓也は大きく肩で息をしている。そしてその男性は心配そうに拓也を見ている。 ―森下さん?― 「何であなたは俺の名前を知っているんですか?」 「はい、免許証であなたの身元を知りました。どうして今、ここにいるか、わかりますか?」 ―未来に戻ったのか?―  そう思いながら 「俺は大和で沖縄に…」  と、独り言の様に言った。 「森下さん、私は当病院の精神科医の長野といいます。」  その男性は拓也にそう告げた。 「森下さん、あなたはここから2キロ程離れた海岸の駐車場の車の中で発見されました。」  海岸  駐車場  発見  拓也の頭の中で、その長野という精神科医の言葉、というより単語を一つ一つ並べていく。そしてその単語の全てが結び付いた時、ある答えにたどり着いた。 「夢だったのか…」  拓也は大きくため息をついた。長野には、拓也が落ち着いた様に見えた。 「怖い夢でも見ましたか?時折、ひどくうなされていました。」  長野はいかにも精神科医らしい医師であった。拓也に対し、優しい口調で話している。  拓也は四時間前、付近をパトロールしていた警官によって発見され、この病院に搬送されたという。あの駐車場は以前から車での練炭自殺が起きていた為、警察もパトロールを強化していたとの事だった。
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