235人が本棚に入れています
本棚に追加
その声は拓也の耳には届いていない。
「今、いつですか?昭和何年ですか?」
「昭和?平成二十年ですよ。」
「昭和二十年?」
「いえ昭和ではありません。平成です、平成二十年ですよ森下さん。」
拓也は大きく肩で息をしている。そしてその男性は心配そうに拓也を見ている。
―森下さん?―
「何であなたは俺の名前を知っているんですか?」
「はい、免許証であなたの身元を知りました。どうして今、ここにいるか、わかりますか?」
―未来に戻ったのか?―
そう思いながら
「俺は大和で沖縄に…」
と、独り言の様に言った。
「森下さん、私は当病院の精神科医の長野といいます。」
その男性は拓也にそう告げた。
「森下さん、あなたはここから2キロ程離れた海岸の駐車場の車の中で発見されました。」
海岸
駐車場
発見
拓也の頭の中で、その長野という精神科医の言葉、というより単語を一つ一つ並べていく。そしてその単語の全てが結び付いた時、ある答えにたどり着いた。
「夢だったのか…」
拓也は大きくため息をついた。長野には、拓也が落ち着いた様に見えた。
「怖い夢でも見ましたか?時折、ひどくうなされていました。」
長野はいかにも精神科医らしい医師であった。拓也に対し、優しい口調で話している。
拓也は四時間前、付近をパトロールしていた警官によって発見され、この病院に搬送されたという。あの駐車場は以前から車での練炭自殺が起きていた為、警察もパトロールを強化していたとの事だった。
最初のコメントを投稿しよう!