8 死に急ぐ、君達へ

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 今ここにいるまでの経過を知った拓也は、肝心な事を忘れていた事に気付いた。 「あの娘は?あの娘は無事ですか?」  そう、美咲の事である。長野は微笑みかける様にうなづく。 「大丈夫ですよ。彼女も命に別状はありません。」 「そうですか。彼女に会わせてもらえますか?」 「今は薬で眠っているので無理です。意識が戻ったら、面会してもいいですよ。ただ、二人共、警察の事情聴取があります。」 「そうですよね。自殺未遂した訳ですから。」 「聴取は気持ちが落ち着いてからからになりますので、延ばす事も出来ますよ。」 「いいえ、俺は大丈夫です。」  今までのあの体験。  それは夢とは思えない位、拓也の体にも心にも実感が強く残っていた。  だが、それはすべて夢であったのだと拓也は思うしかなかったし、それを受け入れたのであった。  長野にはずっと理解しがたい事があった。理解しがたいというより不思議な事であろう。精神科医として、興味本位で尋ねてはいけないと言い聞かせていたが、精神科医としてのモラルより好奇心の方が勝ってしまったのであった。 「森下さん、あなたは練炭と睡眠薬を使われたのですよね?」  突然の問い掛けに、拓也は思い出す様にうなづいた。 「胃洗浄で睡眠薬が検出されました。ただ…」  長野はそこで言葉を濁した。 「ただ、何です?」  拓也が尋ねると、長野は大きく深呼吸をした。 「あなたの胃からは睡眠薬の他に、微量ですが…」  長野はまた言葉を濁す。 「微量ですが、海水と重油が検出されました。これは…どうしてでしょう?」
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