8 死に急ぐ、君達へ

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 私が身元不明の未成年という事もあって、警察の事情聴取で、私の今後についてがネックとなり時間がかかってしまった。  森下さんは「自分が責任を持って面倒をみる」と何度も警察に頭を下げ、最後は警察が折れたという感じになった。  それから私は森下さんの店で住み込みで働く事になった。店の再開に取り掛かり、二人で必死に働いた。客足も少しずつだが増えていき、半年後には黒字に持っていける様にまでなった。  正直「もしかしたら」という不安が私の心の中にあったが、森下さんは私の体を求めてくる事はなかった。そんな不安を持っていた自分が恥ずかしくなった。世の中に、こういう男性もいるんだなと私は思った。  と、言うより森下さんは今でも亡くなった奥さんの事を愛しているのだろう。森下さんは時々仏壇に手を合わせていた。  私は、そんな姿に正直嫉妬したりしてしまった。  日々の合間をぬって、私は大和について調べる様になった。沢山の大和に関する本を読んだり、映画も観た。でも森下さんの体験を信じる事は、正直出来ないままであった。  世間がお盆休みを迎える頃、店もそれに合わせ盆休みを取る事になった。  森下さんは広島に行きたいと言い出した。広島には大和の記念館、大和ミュージアムがあると言う。私も大和について知りたかったので二人で広島に行く事になった。  二人で大和ミュージアムの中を見て回った。  森下さんは真剣な表情で展示してある物全てを見ていた。  が、時折、森下さんは懐かしそうな表情を浮かべている事に気付いた。 ―本当に大和にいたのだろうか?―
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