8 死に急ぐ、君達へ

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 その表情を見る度に私はそう思った。  森下さんがトイレに行っている間、私は大和の乗組員達の写真が飾ってあるコーナーの所に何気なく行った。  そこには歴代の大和の艦長から水兵まで、様々な写真が展示してあった。私はその一枚一枚を目で追った。  私は写真を眺めながら、涙を流している老人に気付いた。 ―大和の兵士だった人かな?―  横目で写真を見ながらその老人の横を通り過ぎようとした時、私は足を止め、数枚の写真に目をやった。私は思わず我が目を疑った。そこには四人の兵士達が写っているのだが、その中の一人が森下さんにそっくりなのである。  その中の一枚は四人でピースしながら笑顔で写っている写真もあった。 「お嬢さん、この写真がどうかしたのかい?」  その老人はハンカチで涙を拭きながら私に言った。 「あ、いえ…その。」  私は驚きのあまり言葉にならなかった。 ―嘘でしょ?似た人?― 「やはり、その写真に目が止まりましたか。」  その声に振り返ると、ミュージアムの職員らしき人が立っていた。 「その写真は呉にあった写真館から寄贈されたもので、このミュージアムにおいて歴史のミステリーとされている写真なんです。」 「歴史のミステリー?」 「ええ、この一枚。四人がピースをしながら写っているでしょう。この時代、ピースサインは日本ではなかった事なんです。ピースサインは当時、イギリスのチャーチル首相が勝利のVサインとしてやったのが初めてと言われているのですが、何故か、彼らもしているでしょう。ですから、歴史のミステリーなんですよ。」  私は全身に鳥肌が立つのを感じた。  もし、この一人が本当に森下さんなら、森下さんがピースをしようとしたなら、このミステリーは全て辻褄があう。
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