8 死に急ぐ、君達へ

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「この歳まで、自分は独りおめおめと生き延びてしまいました、班長。」 「何を言うんだ、村上一水。死んでいった戦友の分まで頑張って生きてきたんじゃないか。私も生きてる。君達から命の大切さを教わった。君達と共に戦ったあの時を、忘れた事はないよ。」 「本当に…本当にご無事で何よりです、班長。」 「君もだ、村上一水。君とまたこうして再会出来るなんて…」  二人はその場で人目をはばからず泣き合ったのであった。  私も涙を流しながら森下さんの背中をそっと、さすり続けたのであった。  自らの命を絶ってはいけない。  そんな当たり前の事を私も含め、現代の日本人は忘れてしまっている。  私も森下さんもその事を、六十年前の昭和というあの時代の、戦艦大和から教わったのだった。  六十年、この日本では生きたくても生きられない時代であった。生きる事も許されない時代でもあった。今、その事が風化されつつある。  六十年の日本では、それでも当時の日本人は必死に生きていた。  なのに六十年後の現代の日本では。  先の見えぬ不況化であっても、六十年前の日本とは違い、平和な世の中である。  死に急ぐ、君達へ。  どんなに辛く、悲しい事情があろうとも  私達は生きなければならない。
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