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電気を消そうと部屋の中に入ると、テーブルの上にあった見慣れないものに目を引かれた。 皮の表紙のアルバムだった。 人の部屋に勝手に入り、人の物を勝手に見る。 私は家族間であってもプライバシーを重んじる。 普段ならばすぐに部屋を出ていただろう。 しかし私は、母の病院でのおかしな態度を思い出した。 猛烈な好奇心が私を突き動かした。 座布団の上に座り、表紙を開いた。 一ページ目は、二人の赤ん坊の写真。 7月10日  清花 純花誕生 と赤ん坊の下の余白にマジックペンで書いてあった。 字が荒い。 恐らく父が書いたのだろう。 写真の下の名前がなければ、どちらが私なのかか分からなかった。 2人が双子だからと言う訳ではない、生まれたばかりの赤ん坊は双子じゃなくても、区別がなかなか付かない。 2ページ目は、蝋燭の飾られたチョコレートのケーキと私と純花の写真。 清花、純花1歳誕生日。 また字が汚い。 1歳位になると、双子の女の子と良く分かる。 本当によく似ている。 父や母は、区別出来たのだろうか? 3ページ目は、少し成長した私と純花とイチゴのケーキ。 純花、清花2歳誕生日。 字が綺麗になっている。母の字だ。 父は、私が2歳になる少し前に死んだと言う話だった。 私も純花も父の顔を覚えていない。 写真でしか父親の顔を見たことがない、見たところでこの人が父親なんだと言う実感がないが。 アルバムは一ページ毎に、誕生日の写真が続いていた。 こんなアルバムが存在したことを私は、全く知らなかった。 10ページ目を開いた、9歳の誕生日だ。 ある変化が生じていた。 顔が違う。 陰と陽、光と影。 垂れ下がった目尻は純花のチャームポイント。 暖かく幸せそうな笑顔。 つり上がった目尻は私のコンプレックス。 冷たく悲しそうな笑顔。 幼い頃の私達、2人は正反対の双子だった。 純花は明朗活発、姉としてのひいき目抜きにしても、可愛らしい誰からも好かれる女の子だった。 一方私は、口数が少なく無表情で『清花って冷たい感じがする』とクラスメートに陰口を叩かれるのを良く耳にした。 小学校の成績も、常に百店満点の私と常に担任の教員の頭を悩ませていた純花。 スポーツ万能で県の陸上大会では常に上位入賞していた私と百メートルもろくに走れない純花。
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