『あなたと、ともに。』

11/14
前へ
/14ページ
次へ
それを言うのが10分、いや、5分遅ければ…。 二人、雑談しながら石を蹴って駅まで向かった。 帰りの電車が僕たちの住む町の一つ手前の駅に着いた時だった。 「…ひっ!」 希望が小さく、しかしはっきりと奇声を発した。 体が硬く小さくなっていた。 「どうしたんだ?」 希望の顔はどんどんと血の気が引いていく。そして、それはまるで久々に対面したあの日の様に…。 希望の固まった目線と、僕の目線が合わさった所に、一人の男がプラットフォームを歩いていた。 電車のドアはもう閉まり、動きだそうとしている。 その男は電車の進行方向と同じ向きに歩いていた。 『まさか…!』 そう思った僕の身体は希望の前に、希望を覆い隠すように、視線を遮った。 電車が次の駅に向けて、スピードを上げても、希望の震えは止まらなかった。 華奢で短髪。 どこにでも居そうな小さな男。 そいつが今、歩きだした希望の足をくじくかのように現れ、消えていった。 僕の中には、悲しみに似た、しかし全く異質の感情が芽生えた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加