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それを言うのが10分、いや、5分遅ければ…。
二人、雑談しながら石を蹴って駅まで向かった。
帰りの電車が僕たちの住む町の一つ手前の駅に着いた時だった。
「…ひっ!」
希望が小さく、しかしはっきりと奇声を発した。
体が硬く小さくなっていた。
「どうしたんだ?」
希望の顔はどんどんと血の気が引いていく。そして、それはまるで久々に対面したあの日の様に…。
希望の固まった目線と、僕の目線が合わさった所に、一人の男がプラットフォームを歩いていた。
電車のドアはもう閉まり、動きだそうとしている。
その男は電車の進行方向と同じ向きに歩いていた。
『まさか…!』
そう思った僕の身体は希望の前に、希望を覆い隠すように、視線を遮った。
電車が次の駅に向けて、スピードを上げても、希望の震えは止まらなかった。
華奢で短髪。
どこにでも居そうな小さな男。
そいつが今、歩きだした希望の足をくじくかのように現れ、消えていった。
僕の中には、悲しみに似た、しかし全く異質の感情が芽生えた。
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