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オレは受話器を投げ捨て、全速力で事件現場に戻った。
「あれ? あの人はどこにいったの?」
どこぞから怪しい男を連れて戻ってきた沙美亜が言った。
ランニングシャツ一枚というのは怪しい。
しかも麦わら帽子なんぞをかぶって顔を隠し、腰には手ぬぐいまでついている。軍手をはめた手には鍬が握られている。その鍬には泥……
――ふっ、読めたぜ。
オレはぴしっと怪しい男を指さし、
「おまえが犯人だ!」
「なぜそーなるのよ!」
ばしっ!
「何をするんだ沙美亜!」
「『何をするんだ』じゃなーい!
この人はね、そこの畑で農作業してた只のおじさんなの!
あたしの力じゃあの人を運べなかったから手伝ってもらおうとして連れてきたの!」
「騙されるな沙美亜、この男はオレ達が目を離した隙をついて死体を埋めたのだ。その鍬についた泥が何よりの証拠だ!」
完璧な証拠を突きつけられ、驚きを隠せない怪しい男。
「畑耕してたんだから泥が付いていてあたりまえだぁ!」
げしっ!
「ぐわぁっ! オレの優秀な頭脳に蹴りが入ったぁっ! すげぇ、いてぇぞっ!」
しばらく地面を転げ回ったオレは、我に返った。
「犯人がいない!」
「だから、犯人ゃないってば……」
「さては逃げたな」
「逃げたんじゃなくて、怒って帰っちゃったの!」
「まあいい、更に完璧な証拠を突きつけてやる」
「まだ言ってるぅ」
「よし、コンビニへ行くぞ」
「さっきの人のことを訊くの?」
「犯人は凶器をコンビニで買ったのさ」
「コンビニにはバナナの皮なんて売ってませんよーだ」
「沙美亜、常識を考えろ」
「冗談にきまってるでしょぉ、ちょっとお茶目しただけじゃない」
ぷいっと横を向いた。
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