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オレは、軽く肩を上げておろす、『やれやれ』の仕草をすると、
「簡単なトリックさ」
「はあ?」
沙美亜が素っ頓狂な声を出した。
「なぜそこにトリックがでてくるのよ?」
オレは口元をゆがめ、
「犯人はまず、手術用のメスでバナナに縦に切れ目を入れ、中身を出したのさ。ちょうど魚の内蔵を出すのと同じ要領でな」
――ふっ、沙美亜のやつ、オレの名推理によほど驚いたようだ。瞬きをするのさえ忘れ、ぼーっと突っ立っている。
オレは話を続ける。
「あとは用意していた糸で縫い合わせれば完璧だ。
こうやって犯人は中身が入っているようにみえるバナナの皮を作り、無事コンビニでバナナの皮を買ったのさ」
「はあ」
オレのあまりにもすばらしい推理に、沙美亜の口から感嘆の溜息が洩れる。
「呆れた溜息です」
「あん? 何か言ったか?」
「そんなまどろっこしいことしなくても、素直にバナナを買えばいいじゃないのよ」
「ふっ、人間の心理は複雑なのさ」
「あんたが複雑にしてるんでしょ!」
「よし、そうと決まれば、コンビニへ急ぐぞ」
オレはこの村――もといこの都市の唯一のコンビニへ向かった。
「いつどう決まったのよ……」
沙美亜もぶちぶち言いながらついてきた。
「いやぁ、すいません、私二時過ぎまで、隣町へ行っていたもので、その時間はアルバイトがレジをしていまして……」
コンビニの店長はそう言って頭を下げた。
皮の内側の乾き具合からして、身の部分が取り出されたのは、今日の十二時三十四分五十六秒。それから、いかにも中身のある普通のバナナに見えるように、細工する時間をプラスすると、一時二十三分四十五秒になる。
つまり、その時間にここでバナナを買った者が犯人というわけだ。
「――で、そのレジをやっていたというアルバイトは今どこに?」
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