容疑者

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「それが、二時間ほど前……だったと思いますが、突然店を飛び出して行ってしまって……」 「突然店を飛び出した? なぜ?」 「それが、店の前を黒服にサングラスの怪しい男が通りかかりまして、それを見てすぐに……。追いかけて行ったような感じでしたけど……」 「一つ訊くが、ここにはアルバイトは何人いるんだ?」 「一人ですよ」 「なるほどそういうことか……」  オレは口元に笑みを浮かべた。 「謎は全て解けたぜ」 「『謎』って何です?」 「つまりこういうことさ警部」 「へ? 警部? あ、あの私、店長なんですけど……」 「ふっ、隠さなくてもいいぜ警部。あんたの正体はとっくにお見通しさ」 「あ、いや、だからね、私本当に――」 「強引に警部さんをキャスティングしちゃってるよ、この人……」 「おそらく、落油は変装していた犯人の素顔を偶然見てしまったんだ」 「落油君のことをご存じで?」 「彼はつい先ほど殺された」 「ええ?! 殺された?!」 「恐らく、手柄を独り占めしようとして単独で犯人を尾行したんだろう。ところが気付かれてしまい――」 「それで、殺されたと……」 「そうだ。だが、これで終わったわけじゃない。オレの推理が確かなら、また殺人事件が起こる」 「なぜ、そう言いきれるのかね?」 「……な、なんか、店長さん、口調が変わってきてるんですけどぉ……  もしかして、だんだんその気になってきてない?」 「考えてみてくれ警部、落油が殺されたのは犯人を尾行したからであって、犯人にしてみれば予定外の殺人だ」 「つまり、犯人が狙っている人物は他にいるというのかね?」 「その通りだ」 「……完全に、麻具根さんの世界に取り込まれちゃったよ、店長さん……」 「だとすると、こうしてはおれんぞぉ! 本部に連絡して応援を要請しなければ――」
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