襲い来る影

3/6
前へ
/29ページ
次へ
「あ、観てたの? なーんか、ぼへらっとした顔でぶつぶつ言ってたから、てっきり別の世界に行っちゃってたのかと思って★」 「観ていたんだよ! まったく……」  オレはリモコンでテレビの電源をオンにした。 [──なことをしても、天国の春明さんは喜ばないぞ。さあ、銃を渡すんだ]  宮田が手を突き出す。 [う、うう……]  谷口が涙を流しながら宮田に銃を渡すと、熊田に向かって両手を突き出す。  熊田の後ろにいた下条が手錠をとりだし、谷口に近づく。 [まて]  熊田が、下条を制し、 [必要ない]  驚きの表情を浮かべる谷口。 [さあ、行こうか]  素直に従う谷口……  ぷつん。  しばしの静寂があたりを包む。 「観てるんじゃなかったの?」 「いや、いい……」  テレビの解説をしても、話が先に進まん。  それより続きだ。  さて、どこまで話しただろうか?  ああ、そうそう、平和ゆえの苦悩──だったな。  そう、この都市は平和。  ふっ、優秀であることも、考え物だな。 「なーにが『考え物だな』よぉ! こんな人口数百人のド田舎に、そうそう事件なんて起きるわけないでしょ。  しかも麻具根さんて、いなくなった犬捜しとか、いなくなった猫捜しとか、いなくなった牛捜しとか、いなくなった豚捜しとか、いなくなった羊捜しとか、いなくなった馬捜しとか、いなくなったお婆ちゃん捜しとか、そういうのはやらないし」 「みんないなくなった動物捜しじゃないかっ!」 「お婆ちゃんを動物と一緒にするのは失礼でしょ!」 「おまえが一緒にしたんだろうがって、あれ? オレ今、自己紹介を口に出したか?」 「うん。しっかりと★」 「ふっ、オレぐらい優秀な探偵になると、気付かないうちに、考えていることを口に出してしまうようだな」
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加