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「それって、アブナイんじゃ……」
「フッ……『危ない』か……
どうやら、ハードボイルドなこのオレから漂う危険な香りは、いくら隠しても隠しきれないようだな……」
「その危ないじゃないって。
まあ、いいや。ところでさ、なんなのぉ、その鼻の下の、つけちょびヒゲ? ぜん──っぜん、似合ってないよ」
「チッチッチッ、まだまだ甘いな、ワシントンくん」
「それを言うならワトソンじゃないの?」
しばしの沈黙。
「と、とにかく――これはつけヒゲではない!」
「どこからどう見たってつけヒゲ――」
「だから甘いというのだ!」
「な、なにも、怒鳴らなくたっていいじゃない」
頬を膨らます沙美亜。
「いいか、探偵というのは、いついかなる時でも観察する目が大切だ」
「麻具根さんが、珍しくまともなこと言ってる……」
オレは膿よりも広い心で、沙美亜の暴言を聞き流した。
「『膿』じゃなくて『海』でしょ……。まあ、麻具根さんの場合、膿でもいいけど」
沙美亜の呟きは、オレの耳には入らなかった。
「しっかり入ってるじゃない」
「えーい、話が進まんから、要らぬ茶々は入れるなぁっ!」
「わかったわよ。で、そのちょびヒゲは何なの?」
「だぁかぁら、ちょびヒゲじゃないって言ってるだろうがっ!」
「じゃあ、なんなのよぉ!」
「ノリだ!」
「は?」
沙美亜は目を点にした。
「ふっ、驚いたようだな」
オレは口元に笑みを浮かべた。
「いいか、このノリは昼にコンビニおにぎりを食べた時に勝手に付いたものだ!」
「威張って言うセリフかぁっ!」
げしっ!
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