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オレは電話番として沙美亜を事務所に残し、地下の駐車場に来た。
「あれ? 車替えたの?」
――って、言ってるそばから、ついてきてるしぃ、この娘は……。
「電話番はどうした?」
ハードボイルドに決めるオレ。
――くぅ、かっこいいぜぇ☆
「これ、いらないの? さっき落としたけど」
「あん?」
それは車のキーだった。キピーちゃんのマスコットがついている──って、
「おい! なんだこれはっ?!」
普段はハードボイルドに決めているオレも、これにはさすがにカチンと来た。
「なにって……キピーちゃんがどうかしたの?」
「おまえこれ踏んだだろう?! 足跡がついてるぞ!」
「あ、ばれちゃった。てへ♪」
「『てへ♪』じゃない『てへ♪』じゃ! オレの大事なキピーちゃんになんてことするんだよぉ」
「ねえ、この車いつ買ったの?」
「おめーな、人が本気で悲しんでいるときにとっとと話題変えるなよぉっ!」
「いちいち細かいことを気にしないの、せっかくのハードボイルドでカッコイイ男が台無しよ♪」
――お、おっと、そうだな、ハードボイルドなオレが、これぐらいで感情的になってはいけないな。
「この車か? これはな――」
「単純」
「なんか言ったか?」
「え? あ、ううん、なんでもないの。続けて☆」
「この車は昨日買ったのさ。おまえも会っただろう? 事務所にいたあの男さ」
黒い髪をきっちりオールバックに固め、黒いスーツに黒いサングラス、黒の革靴と、すべて黒で統一した、送り人をも上回る、誠実そうな男だった。
「えーっ?! あんなやたらと怪しい人から買っちゃったのぉ?!」
「はっ、おまえは人を見る目がないなぁ。
あの男は良いヤツだったぞ。中古でも九百万はする車を、半額以下の三百万で売ってくれたんだからな」
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