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「絶対怪しい」
「どこが怪しいっていうんだ?」
「車のことよくわからないけどぉ、普通、新車でも二百万いかないと思うよ……軽トラって」
「ふっ、所詮、普通の女子高生だな。車のことを全くわかっていない……」
オレは、沙美亜に哀れみの目を向けた。
「これはな『ケイトラ』なんてふざけた名前じゃないぞ」
「ま、まあ、そりゃ、他に名前あるかも知れないけど、一般的に軽トラックって──」
「ああ、わかったわかった」
負けず嫌いの沙美亜の、強がりを遮ったオレは、
「いいか、この車はな──」
言いながらその白く美しいボディに愛おしく触れ、
「ベンツっていうんだ」
「…………」
沙美亜の目が点になる。
──まあ、当然だろう。貧乏女子高生が、一生の中で見ることができるかどうかもわからない高級車だからな。
「ねえ、麻具根さん……」
沙美亜が言葉を絞り出すように言った。
「なんだ?」
「思いっきり騙されてるよ」
「はあ? 何を訳のわからんことを──」
オレのセリフが言い終わらないうちに、
「ぐわあっ!」
男の悲鳴。
オレは反射的に悲鳴のした方に走り出していた。
これは――殺人事件の香りがする……。「むりやり殺人事件にしようとしてるわね」
「ん? 何か言ったか?」
「なーんにも」
被害者は、コンビニの店員のようだ。
まあ、この程度のことは、このオレの鋭い観察力と優秀な頭脳があれば一発だ。
「小学生でもわかると思うよ。コンビニの制服を着てるもん」
「被害者の名前は──落油(おちあぶら)か……」
胸の名札にそう書かれている。アルバイトのようだ。
「誤魔化したわね……」
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