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「……何を勘違いしているか知りませんが--」
私達が知りたいのは、
善か悪かを見分ける基準や
強さの根源に関わる過去である。
ならば---
「私達が知りたいのは、貴方の過去ではありません。」
彼女の意識を、過去から反らさなければ。
「思想と能力を含めた“素性”。
ただそれだけです。」
男の力強い声が風に乗り、翼の耳に届いた。
「………ふーん、そう……………
………なら、教える必要はないですね。」
話せば分かりますもんね、
と翼は付け加えながら面白そうに口元を緩める。
---まるで、教えるつもりだったかのような口調。
しかし、それを問い質せば、相手の思う壷のような気がして。
男は、口を開くことを戸惑った。
「………さて、と。」
何となく、話しに一段落がついた頃。
翼から、静かに区切りを付けたような声が漏れる。
「用がそれだけなら、もう行きますね。」
「え、ちょ---」
トンッ
男の声を遮るかのように軽やかな男がしたと思ったら、
あっさりと男の視界から翼が消えた。
---目線を合わせたまま。
つまり、翼は後ろ向きで屋根から飛び降りたのだ。
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