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「……別に、一杯も飲めないわけでは無いが、
俺は基本的に酒に弱い。」
………ふーん。
弱い、ね………。
「このことは、他の奴らにぺらぺら話すなよ。」
止まっていた手を動かして机を拭きながら、
土方は翼に淡々と釘をさす。
それを聞いた翼は静かにため息をつくと、
口角を少し上げ、
綺麗な声を部屋に響かせた。
「---鬼の副長は優しいね。」
土方の手がピクッと反応して止まる。
敬語がとれた無機質な声に、身体の機能を止められた気がした。
しかし、それもつかの間の出来事。
土方は、何を根拠に、
と問い質せようと振り向いたが---
「ー-っ………」
翼の表情を見た瞬間、
その思考が吹っ飛んだ。
-----まただ。
また、こいつはこの笑顔をしてやがる………
目を軽く細め、口角を少し上げる、そんな笑顔。
悲しみと哀れみで染まりきった笑顔だ。
---いや、これは“笑顔”と呼ぶ代物ではなく……………
---“愁色”という方が正しいだろう。
「…どういう意味だ。
何を根拠に言っている。」
土方は気を取り直して翼に問い掛ける。
翼の言葉が、冗談やからかいでは無いのは目を見れば一目瞭然なので、
土方の口調も本気である。
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