2661人が本棚に入れています
本棚に追加
視線を少し下げて淡々と話す翼の言葉に、
土方の言葉が被さる。
それが見事綺麗に被さっていたため、
翼は文末しか聞き取れなかった。
そのため、翼は一旦言葉を切り、土方に視線を向ける。
「つまり、お前が言いたいのは、俺は酒が“飲めない”んじゃなくて、意図的に“飲まない”ってことだろ?
………何故、分かった。」
否定するだけ無駄だと思ったのだろうか。
土方の口から、すんなり肯定する言葉が飛び出た。
………何故、と言われても……………
「………経験と勘、ですね。」
愁色を浮かべ、吐息混じりに儚く告げた翼に、
土方は言葉を失った。
「…いたんですよ。
私の………知り合いに、土方さんのような人が。
---周りの人達をきちんと考えるほど優しいのに……いや、優しいからこそ、憎まれ役を買う人が。」
“知り合い”という言葉に、土方は違和感を感じた。
しかし、その理由は次の翼の言葉で明確になる。
「---何年も前に殺されて、もういませんけどね。」
微かに愁いを含んだ声と表情。
何も無い空中に向ける瞳の奥は、黒い闇が広がっている。
その様子から、ただの知り合いでは無いことは明白だった。
「俺は-----」
最初のコメントを投稿しよう!