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「…先程、ひっかけてみたのですが………」
「見事、返り討ちにされたって訳か。」
言いにくそうに話しだした山崎が濁らした語尾を、
土方が綺麗に受け継いだ。
吐息と苦笑混じりのその言い方に、
山崎は申し訳なさそうに静かに頷く。
「…彼女から過去を聞き出すには、かなりの時間と信頼性を要すると思われます。」
………信頼性、か。
山崎の報告を聞いた土方は腕を組んで瞼をおろす。
頭の中で打開策はないのか考えるが---
「…あいつの過去を探るのは難しそうだな…。」
読心術を多少心得た山崎でも無理だったのだ。
打開策は皆無に等しいのだろう。
「………ま、要するに、あいつが敵に寝返らなければいいだけの話だ。
そこに注意をはらってくれ。
過去は……機会があれば、探ってくれ。
今度は気付かれないようにな。」
「御意。では、このまま監視を続けます。」
「あぁ、頼む。」
土方の命令を受けた山崎は、音も無く静かに部屋から消え去った。
一人残った土方は、障子をスッと開ける。
「……望月 翼、か…。」
未知なる強者の入隊に、土方は一抹の不安と喜びを胸に残したまま空を見上げた。
---吉と出るか、凶と出るか………。
…どっちにしろ、壬生浪士組をこんなところでは終わらせる訳にはいかねぇ………
土方は改めて強い決意を胸に刻む。
見上げた空は紫色に染まっていて、
朝が近付こうとしていた。
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