364人が本棚に入れています
本棚に追加
病院の霊安室の前のソファーに
赤城先輩とお父さんがいた。
お父さんは私たちに気付くと、
赤城先輩の肩をトンと軽く叩き、
『頼む。』とでも言う様に私たちに軽く頭を下げ、その場を後にした。
私はこんな時、どうしたらいい?
私はこんな時、何て言ったらいい?
赤城先輩から距離を置いて、
ただただ三人で佇んでいた。
そして相模先輩は長い沈黙を破り、
赤城先輩の前に歩み出た。
「今さっき、笹山を抱きしめた。」
えっ!? ええっ?
今、言う事?
ガタン
赤城先輩がいきなり立ち上がり、
相模先輩に殴りかかった。
「良かった、殴る元気残ってて。」
殴られてるのに平然と言いのける相模先輩。
その言葉に再び赤城先輩が殴りかけた時、今度は相模先輩が赤城先輩に殴りかかった。
私はそんな光景に震えたが、
木下先輩はただ黙って見守っていた。
「……悪かったな。
今までお前の痛み、分かろうとしないで。」
そう言う相模先輩の表情は穏やかだった。
「お互い様だろ。」
そして何かを吹っ切った様に
赤城先輩の表情も穏やかだった。
「これでケリ、着いたよな?」
「意味分かんねぇ。」
相模先輩は一呼吸置くと、
「まぁ、これからは仲良くやってこうぜ。」
赤城先輩も一呼吸置き、
「本気なら、俺も本気で応えるよ。」
それに対して相模先輩は苦笑いを浮かべた。
「本気だよ。
だって俺たち、
この世界で、たった二人の兄弟じゃん。」
赤城先輩も苦笑いを浮かべた。
「それにしてもイテェんだよ。」
赤城先輩が殴られた左頬を抑える。
「俺なんかさっき木下にも殴られてんだよ。しかも同じところ。」
二人が木下先輩に視線を送ると、
木下先輩はニッと笑って拳を振って見せた。
男の世界を理解するのは、難しいね。
でも、
本当に、
良かった。
最初のコメントを投稿しよう!