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私の足は校舎の屋上に向かっていた。
相模先輩とのことがあってから、
昨日も今日も赤城先輩の姿が無い。
私は、屋上にその姿を追っているのかも知れない。
「いた。」
赤城先輩だ。
しかし一歩延ばしかけた足を戻した。
「木下先輩も一緒なんだ。」
赤城先輩の隣には木下先輩の姿もあった。
二人の前に行く勇気は無く、
帰りかけた時に二人の会話が聞こえてきた。
「約束忘れてないよな?」
と木下先輩。
……約束?
「10日以内に
笹山未可子に『好き』って言わせて
キス出来なかったら、
キッパリ諦めて俺に協力するって。」
足が震えた。
「……分かってるよ。」
それを認める赤城先輩の一言に、
更に震えた。
膝から崩れ落ちそうになった私を、
後ろから支えてくれたのは、
相模先輩だった。
「分かったろ?
アイツは、そういう奴なんだよ。」
何処か認めたく無かったけど、
認めるしか無かった。
「アイツは、俺から親父を奪って、
母さんから笑顔を奪って、
弁護士という俺の夢まで奪いかけてる。
でも、
君を奪う事だけは許さない。」
赤城先輩と木下先輩が話し終えて
こちらにやって来る途中で私たちに気付いた。
すれ違いざま、赤城先輩と相模先輩が、
一瞬鋭い視線を交わした。
木下先輩は私を気遣ってか、
「やあ!」と、私に微笑んで見せた。
その後も相模先輩の話しは続いた。
赤城先輩のお母さんは、
相模先輩のお父さんの愛人で、
赤城先輩と相模先輩は
異母兄弟になるらしい。
赤城先輩の高校進学を機に、
お父さんが赤城先輩親子を近くに呼び寄せ、それが元で、お母さんが相模先輩を連れて家を出た。
大学病院の院長であるお父さんが、
赤城先輩に後継者の期待をかけた事で、
弁護士を目指していた相模先輩は、
大学への進学が難しくなり、
特待生としての奨学金を得る為に
勉強に打ち込み始めた。
それが私との交際を断った理由らしい。
「アイツは将来が約束されてるから
好き勝手やってるんだよ。
でも、俺は違う。
いつでも真剣だよ。
君の事も真剣に考えてる。
アイツとは違う。」
------アイツとは違う。
その言葉がとても重かった。
------『好き』って言わせてキスする
赤城先輩をもっと知りたいなんて
思わなければ良かった。
こんな赤城先輩なんて、知りたく無かった。
涙の止まら無い私を、
抱きしめてくれているのは……相模先輩。
これが、現実だった。
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