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「アップルジュース持って来てやるから、
そんな不安な顔すんな。」
赤城先輩はそう言って、
私の頭をまた優しく撫でた。
「ごめんなさい。」
「ホント言うとさ、
俺もまだ自分の気持ちに自信無いんだ。」
素直にショックだった。
でも、素直にその言葉を受け止める事が出来た。
「だけどあの時、このまま未可子が
木下と付き合う事になるのだけは嫌だった。」
自信が無いのは私も同じ。
でもこのままだと、明日になったらもう
赤城先輩の隣には、
居られ無くなるかも知れないから。
嫌だから、良く分からないけど、そんなの嫌だから。
「赤城先輩、私、先輩の事、」
と、不意に赤城先輩の携帯が鳴った。
「えっ! わかりました。すぐ行きます。」
赤城先輩は、「ごめん。」と言うと、
すぐにタクシーを呼びつけた。
ただならぬ雰囲気に、
タクシーには私も思わず同乗していた。
向かった先は、大学病院。
赤城先輩は、病室に飛び込むなり
「母さんは!?」と、叫んだ。
「今は、眠っている。とりあえず出なさい。」
そう言った医師の胸のネームを見ると、
【院長 相模宗一郎】とあった。
相模先輩と赤城先輩の……お父さん?
「お母さんは体力が戻り次第、
手術する事になるだろう。」
「助けてもらえますよね?」
「全力は尽くす。
それより、お前の方こそ大丈夫なんだろうな?
いくら私の推薦があるからって、
トップクラスの成績は維持して貰わないと困るぞ。」
「分かってます。約束ですから。」
赤城先輩の右手の握り拳に
力が入ったのが分かった。
「全く謙介は、医者の血を引きながら
弁護士なんかに興味を持ちやがって、
話しにならんのだからな。」
私と赤城先輩は、お母さんが目覚めるまでロビーで待つ事になった。
「お母さん、かなり悪いんですか?」
少しためらいながらも聞いてみた。
「心臓に持病があるんだ。
自分に何かあったらって俺の事心配して、あの人に連絡取ってたらしい。
そしたら俺に連絡が来て、
俺が医者を目指す事を条件に、
母さんの面倒を全てみるって言って来た。」
相模先輩が苦しんでる様に、
赤城先輩も苦しんでる。
こんな時、私には何が出来る?
ただ苦しんでる先輩の隣にいる事しか出来ない自分が、悔しいよ。
「俺も、平凡で良かったんだけどな。」
私、平凡で良いなんて言っちゃったけど、
平凡がこんなに難しい事だったなんてね。
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