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「お母さん、どうでした?」
赤城先輩が、目を覚ましたお母さんの病室から出て来た。
「まだ意識は朦朧としてるけど、
とりあえず大丈夫そうだった。」
そして 「よろしくお願いします。」と、
お父さんに頭を下げた。
「俺を誰だと思ってる。心臓外科の名医だぞ。早く帰って勉強でもしてろ。」
不安気な表情の赤城先輩を、
元気づけるかの様なお父さんの言葉に、
「相変わらずだな。」
聞きとれ無い位の声で赤城先輩が呟いた。
でも確かにこの大学病院は、
心臓外科では世界レベルを誇っていた。
それだけに、良くも悪くも
メディアで注目される事が多かった。
「母さんは、医学的にはもう、
どうこう出来る状態じゃないんだ。」
病室に戻るお父さんの背中を見送りながら赤城先輩が言った。
「そんな……」
「母さんの病気の事があったから、
俺もガキの頃から医学書とか読みあさってて、いつの間にか医学に興味を持ち始めて、気づいたら医者になりたいなんて思う様になってた。
だから、本当は医者を目指す条件出された時は、正直、嬉しかったのかも知れない。」
それを素直に喜べ無いのは、
相模先輩の事があるからなんですね。
「数年前、この病院で問題になった医療ミス知ってる?」
「はい、ニュースで見ました。」
裁判では不起訴になったけど、
一部では病院側の証拠隠滅があったって
言われてる。
「俺は、病院側の処置は適切だったと思ってる。でも、世間を納得させられるだけの
医療知識がある弁護士がいないんだよ。」
何が言いたいんですか?
「先輩?」
「相模が弁護士に成りたいって思う気持ちが分かる気がする。」
「えっ!」
「あいつが目指してるのは……医療弁護士
だから。」
先輩達は、きっと身勝手な父親を恨んでる。
でも同時に、心の何処かで尊敬してる。
先輩達が悪いんじゃ無いって、
きっとお互いが分かってるはず。
それでも歩み寄れ無いもどかしさに
苦しんでるんだ。
ずっとこのままなんて、悲し過ぎるよね。
待機中のタクシーに
合図を送ろうとしている赤城先輩の腕を、両手で掴んで止めていた。
「もう少し、一緒に居たいと思ったら……
ダメですか?」
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