第一話『“二つ”の招待状』

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季節は秋。 夏の暑苦しさも何処へやら。 台風の訪れと共に残暑もその姿を消し、肌寒さが増してきた。 夏真っ盛りの時は、 「早く涼しい季節になれ」 と照りつける太陽を恨んだものだが、いざ涼しい――を通り越して肌寒い――季節になると、 「あの夏の暑さが懐かしい……」 と思ってしまうのは天の邪鬼なのか贅沢な悩みなのか。 季節は秋である。 秋には様々な楽しみ方があった。 教養を高める為の読書。 秋ならではの味覚を堪能するもよし。 広大な自然の風情に心打たれるもよし。 運動不足解消にスポーツで身体を動かすのも良いだろう。 そんな新しいことにチャレンジしたり、趣味に没頭したりする秋。 涼しくなってこれ幸いとばかりに“相変わらず”騒がしい者たちがいた。 「毎日毎日馬車馬のように走ってばかり。いい加減違うことがしたいわよね」 ユニフォーム姿のままグラウンドを走りながら、その少女は呟いた。 健康的に日に焼けた肌と強い意思を感じさせる鋭い目付きが特徴の少女。 十分美少女と呼べる容姿のその少女は、既に一人でこのグラウンドを10周ほど走っていた。 彼女こそ二ヶ月前に行われた高校“女子”野球の全国大会でチームを初出場初優勝という快挙に導いた立役者の一人、藤村真琴である。
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