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奪われてはいけない追加点を許してしまった。
それも、先頭の強打者との勝負を自ら選んで避け、次の打者と勝負することを選んで、だ。
(あいつ、ここで簡単に折れちまったら容赦しねーかんな)
険しい表情と、それにマッチした鋭い眼光を光らせ佑香はレイカを睨んでいた。
レイカが少しでも打たれたショックをマウンドで見せようものなら、佑香はセカンドのポジションから飛びかかるつもりだった。
冗談ではなく、本気で。
だが、それは杞憂だったようだ。
次の打者である思いきりの良いスイングが持ち味のこのみに対し、怯むことなく腕を振る。
変則フォームの真骨頂は打者にタイミングを掴ませないことにある。
打者の間合いてはなく、投手の間合いで投げ込む。
だったらさっきホームランを打たれる前にこの快投をしろよ、と言いたくもなるが、そもそも真琴への一球も失投てはない。
打った方がおかしいのだ。
「で? この馬鹿を次も使うの?」
敬遠で歩かされ、真琴のホームランで一周してきただけの琴奈はそれを指差しながら言った。
追加点に浮かれるまではいかなくても、盛り上がっているかと思われた高校Bチームベンチだったが、今はただそれをどうするかしか考えられない空気の中にあった。
懸案事項であるそれとは、
「好き勝手暴れて満足して疲れたら寝るって、どこの小学生よ」
ベンチに戻ってくるなり腰かけ、そのまま寝てしまった真琴の姿。
完全に熟睡している。
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