記憶

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昼下がりの空は熱された地面を冷やす様に暗雲が立ち込めていく。 恭介が物件を探している頃、外ではポツポツと静かな雨が降り始めていた。 その静かな雨を吹き飛ばす程の嵐が接近している事を恭介はまだ知らない。 店員:(こ、怖いよぉ~怖いよぉ~。) 恭介:で、どうなのよ!? 店員:は、はい! こちらとってもいい物件になってまして、何とお家賃が一万円なんです! 恭介:・・・風呂は? 店員:えっと、あっ、何と徒歩三十分の場所に銭湯がありますね~! 恭介:遠いわッ!! トイレは!? 店員:トイレは共同トイレなのでお隣さんとも仲良くなれるんですよ☆てへっ。 恭介:てへっ☆じゃないでしょこのバカチンがぁぁ!! 店員:きゃーーー!! 怖いよ~。 一人怯える女店員が周囲を見渡すと同僚達が目を逸らす。 可愛らしいドジっ子ちゃんに吠える恭介はそれに気付く余裕もない程行き詰まっていた。 ゴロゴロ・・・ピシャッ!! 店員:キャー! 外では雷が鳴り響く。 恭介:金は気にしないから普通の奴探してくれない? 店員:うぅ~・・・ご予算はどのくらいですか? 恭介:そうだな。 一千万くらい? 店員:ぶっ!! い、一千万!? そんな金ある訳無いでしょう!! 恭介:ふざけんな! これを見やがれー! そう言うとポケットから紙切れを取り出す恭介。 店員:一、十・・・万・・・。 ふえ~!? そ、そんな物件ないですよー!! プルルルルルル・・・。 その時、会社の電話が鳴り響いた。 店員:あ、ちょっとすみません。 すると恭介の対応をしていた店員が電話をとる。 店員:はい・・・え? あ、はい。でも、はい。 恭介:むむ、まだ待たせるか。 ・・・ガチャ。 電話を終えると店員は困惑した表情で喋り始めた。 店員:あの、今お客様のお父様と名乗る方から連絡がありまして・・・家は貸さなくていいと。 恭介:あ? ゴロゴロォオ・・・!!
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