14人が本棚に入れています
本棚に追加
夢を…見た。
嗅ぎ慣れた腐臭の漂う薄暗い裏路地。
嫌に暖かく感じる血が腕を伝い、足元に広がる機械油で汚れた池が、感覚の失せた指先から滴り落ちる血液で赤く染まって行く。
何故―…
血の気の失せた唇が、か細い震えた声を紡ぐ。
立ってなど居られなかった。
崩れる様に落ちた膝に冷えきったコンクリートの冷気が伝わり、途切れそうになる理性を辛うじて繋ぎ止める。
『面倒な事は嫌いでね』
聞き慣れた筈の声は何時もとは違う音色で、そう…言っただろうか。
次第に焦点が合わなくなってくる瞳が見たものは―…
焦がれた人の冷めた微笑みと
漆黒の翼が広がる様に翻ったコート。
そしてあの人は
傷だけを残して
消えていった……。
最初のコメントを投稿しよう!