第1章

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夢を…見た。 嗅ぎ慣れた腐臭の漂う薄暗い裏路地。 嫌に暖かく感じる血が腕を伝い、足元に広がる機械油で汚れた池が、感覚の失せた指先から滴り落ちる血液で赤く染まって行く。 何故―… 血の気の失せた唇が、か細い震えた声を紡ぐ。 立ってなど居られなかった。 崩れる様に落ちた膝に冷えきったコンクリートの冷気が伝わり、途切れそうになる理性を辛うじて繋ぎ止める。 『面倒な事は嫌いでね』 聞き慣れた筈の声は何時もとは違う音色で、そう…言っただろうか。 次第に焦点が合わなくなってくる瞳が見たものは―… 焦がれた人の冷めた微笑みと 漆黒の翼が広がる様に翻ったコート。 そしてあの人は 傷だけを残して 消えていった……。
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