第一章

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 らしい、というのは、俺が魔術を使えないからだ。使えなければ、どれだけ説明されても、書物を読み漁っても、らしい、としか表現できない。  自分では、文字列は理解できていると確信している。あれだけ勉強しておいて、理解できていませんでした、ではやすせない、かな。……ま、魔術が具現化できていない俺がそれを確認する術はないが。  使えない理由。簡単だ。ただ、魔力がないだけ。  どれだけ文字列を理解できたとしても、媒体となる魔力がなければ話にならない。  生まれつきだった。  生まれたときから、魔力が極端に少なかった。生きているのが不思議ってほどでもないけど、限りなく少なかった。親父は渋い顔をして、母は泣き狂ったそうだ。ま、仕方ないよな。  でも、そんな俺でもちゃんと育ててくれた親父には感謝してる。母は冷たいが、仕方ないとしか言えない。  そういえば、幼い頃はまだ母は優しかったな。シーラとの婚約は母も喜んでいたし。シーラがいなくなって、再び塞ぎ込んで、ミーナとの婚約が決まってから、また少し元気になった。……悲しくはなかった。母からすれば、俺の存在意義はその程度のものだったから。  そんな立場に負けないために、必死に勉強はした。幼い頃は、自分の境遇なんて理解してなくても、勉強した。
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