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 ハンカチを目に当て、顔を埋めていると、――不意に手を掴まれ、わたしは驚いて目を上げた。  先生がゆっくりと、わたしの手を引き下ろしていく。  思っていたより顔が近くて、……胸がトクン、と揺れた。 「せんせ…」  琥珀色の、とてつもなく美しい瞳が、わたしを真っ直ぐに見つめている。  目を逸らそうとしても、その視線が深くわたしを捕えて、離さない。 「……泣き顔、見せて」  澄んだ声で囁かれ、さらに鼓動が速くなる。  身体を強張らせているうちに先生の手がこちらに伸びて来て、顔にかかったわたしの髪をすっと耳にかけた。  晒された、少し上気しているはずの頬を、ひやりと冷たい手のひらが包み込む。 「……あ……、あの……」  ぱちくり、と瞬きをすると、目に溜まっていた涙がぽろりと零れ、先生の親指がそれをすくい上げた。  そしてそのまま、しなやかな指先を滑らせ、わたしの唇に優しく触れる。  ……しょっぱい……。  目の前の少し切なげな表情が、わたしの胸をざわざわと騒がせる。  先生の指はわたしの唇から頬をなぞり、流れるように耳元に到達した。  耳たぶに指先が触れ、ぴくり、とわたしが反応すると、……先生はフッと表情を緩ませた。 「――無防備すぎ」 「……え」 「校則違反。男と二人きりのときにそんな顔するのは、良くないな」 「……」  先生はわたしの手からハンカチを取り、まるで泣いた子供をあやすように涙を拭ってから、仕上げに鼻の頭をギュッとつまんで立ち上がった。 「近いうち、また部員達に招集かけるから。坂口のシフトの分担もしないとね。 もう休み時間終わるから、行っていいよ。ありがとう」  ドアに歩み寄り、大きく扉を開けてこちらを見る。 「……」  今のは…………なに?  ……ホントに、現実……?  止まらなかったはずの涙は驚きに上書きされ、もうとっくに引っこんでいた。
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