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渡り廊下に一歩足を踏み出すと、身を切るような冷たい空気が頬を刺した。
手すりから手を伸ばせば届きそうなところに、葉を全て落とした枝が寒々しく揺れている。
これは、若い桜の木だ。
今はもの悲しい姿を晒しているけれど、春にはきっとまた綺麗な花を咲かせてくれる。
……さむ……。
わたしは身を縮めるようにして、渡り廊下を足早に通り抜けた。
突き当りを左に折れ、放送部室の見慣れたドアの前に立つ。
ノックをする前に携帯を取り出し、念のためもう一度確認してみたけれど、やはり新しい受信メールは無かった。
……万優架……。
いったい、どうなっちゃってるの?
雪村俊輔がいなくなってから、四日が経っていた。
金曜の夜に消息を絶って、今日はすでに火曜日。
さらに万優架までもが自宅に引きこもり、登校して来なくなっていた。
重いため息をついてから携帯をポケットに戻し、遠慮がちに部室のドアをノックする。
「どうぞ」
――春山先生の声……。
わたしはセミロングの髪を手早く指で梳き、制服のリボンを直してからドアノブを回した。
「お呼び……ですか?」
「ん。座って」
先生は、テーブルの上に置かれた一枚の紙を前に、深刻そうに腕を組んで座っていた。
『1-A椎名萌。至急、放送部室まで来るように』
5分ほど前、学年主任の小林先生の声で呼び出しの放送があった。
てっきり小林先生がいると思いきや、意外にも待っていたのは春山先生で、――いつもなら嬉しくて胸を高鳴らせるところだけれど、今日はとてもそんな気分にはなれない。
「坂口から、連絡あった?」
わたしが座ると、先生はいつものポーカーフェイスのまま訊いてきた。
「こちらからメールして、一度だけ返信が来ました。
大丈夫だから心配しないで、って。……迷惑掛けて、ごめんって……。」
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