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……気にしない気にしない……。
呪文のように心の中で呟き、自分に言い聞かせる。
――何も悪いこと、してないんだから……。
耳に残った嫌な笑い声を振り払おうと、足を速めた時だった。
「萌ちゃーん」
振り返ると、サッカーウエア姿の板東先輩が門を飛び出し、こちらに向かって走って来るのが見えた。
すぐに追いつき、息を弾ませながらウエアのポケットを探る。
「よかった間に合って。今、ちょうど休憩で……。……あれ、……おかしいな」
先輩はしばらくもぞもぞしてから、やっと目的のものを探り当て、こちらに差し出した。
「これ、俺のなんだけど。もしよかったら」
「……」
受け取るのに躊躇していると、先輩は困ったように笑ってわたしの右手を取った。
手のひらに乗せ、優しく握らせる。
「これ、渡したかっただけだから。練習、戻るね。
明日の『恋パラ』頑張って。楽しみにしてるから」
「……ありがとうございます……」
絵にかいたような爽やかな笑顔につられて微笑み返すと、板東先輩はさらに嬉しそうな顔をして、軽やかに走り出した。
その姿が門の中に消えてから、わたしは手のひらをそっと開き、受け取った紙片を見つめた。
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