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二人の自転車が徐行を始めたので、わたしも慌てて歩幅を広げ、並んで歩き始めた。
「これからどこかに行くの?」
「うん。ファミレスでも行こうかなって。萌も来る?」
「や、絶対やだ」
「なによ、それー!」
万優架がキャッキャと笑いながら、わたしの肩を思いきり叩いた。
割と本気でダメージを受け、肩をさすりながらふと雪村くんの顔を見る。
「あれ?――今日、サッカー部の練習は?」
「も、萌ちゃーん、それ言わないでよー。怪我したことになってんだからさー」
雪村くんは急にオドオドと後ろを気にし始めた。
「おい、榊に見つからないうちに行くぞっ。――んじゃーね、萌ちゃん!」
「また明日ね、萌」
「うん。バイバイ」
わたしが手を振ると、雪村くんは腰を浮かせ、下り坂をすごいスピードで降りて行った。
万優架の甲高い悲鳴が耳に残る。
……仲いいな……。
わたしは頬を緩ませながら二人を見送った。
その後ろ姿が見えなくなってから、ふと手のひらを広げる。
手の中の紙切れには、坂東先輩のメアドと携帯番号が書かれていた。
『返事は、いつでもいいから』
放課後の教室。
昨日、先輩はわたしの手を取って、付き合ってほしいと言った。
少しだけ震える手で、きつくわたしの指先を握って。
――もしも、先輩と付き合ったら。
万優架たちのように、学校帰りに自転車の二人乗りをして、制服姿のままファミレスでお茶したりするのだろうか。
わたしはその未来を想像してみようとした。
でも、なかなか上手に思い浮かべることが出来ない。
板東先輩ではなく春山先生の顔ばかりがちらついて、――なぜか、泣きそうになった。
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